2011年09月01日

アニメ「ノワール」が投影した光芒のダブルオー年代

(敬称略)
1.私の予想に反して爛熟の10年を迎えた日本アニメ
 1995年TV放映のエヴァンゲリオンからアニメ界は以前よりも活況を見せ、商社筋の資本参加もあって、テレビでの放映本数も増加し、ファン層も拡大した。2000年世代、つまり00(ダブルオー)年代には、コンシュマーゲーム機やパソコンゲーム及びインターネットの成長などによりメディアが乱立した。私の予想では各メディアがファン層を奪いあう事になり、アニメは退潮期に入ると考えたが、実際にはオタク産業の中核メディアとしてアニメ作品は重要度を増し、デジタル化も進んで表現の幅を広げた。
 この光芒のダブルオー年代が後世に輝かしい評価を得るのは間違いない。同時代を生きた我々には各作品を評価し、何を感じて、何を考えたのか、書き記す義務があるとすら思う。
 2001年『NOIR』(ノワール)というテレビアニメ作品が放送された。予告編を見て、女子高生によるガンアクションと、殺伐とした暗殺シーンに「不謹慎極まりないこの作品だけは絶対見ない」と固く自分に誓ったのだが、ひょんな事から見たのが運の尽きで、3回は通してみるはめになり、サウンドトラックは幾度となく聞いた。
 ノワールはセルアニメとしては最後期に当る。セルの色調や質感、透過光処理、重力感のある動画など、これまで慣れ親しんできたアニメーション表現が駆使されていたことも、古くからのアニメオタクとして親しみやすい感覚を受けたのかもしれない。ノワールを手がけた真下耕一監督が後に製作した「.hack」シリーズや「MADLAX」ではデジタル処理ならではの浮遊感を強調した演出が数多く見られるのが対照的である。

2.美少女(美女)ガンアクションの系譜
 真下耕一監督の『ノワール』(2001年)は『MADLAX』(2004年)や『エル・カザド』(2007年)と併せて、美少女がツーマンセルで謎を追うガンアクションアニメ3部作と言われている。同じく真下耕一監督は『Avenger』(2003年)・『Phantom〜Requiem for the Phantom〜』(2009年)と美少女ガンアクションアニメを手がけている。
 時系列でみると士郎正宗の『アップルシード』(1985年)『ドミニオン』(1985年)『攻殻機動隊』の作品群がある。どれも体制側の軍務に就いている点で、他の作家とは設定が異なる。
 1990年にリュック・ベッソン監督の『ニキータ』(Nikita)が公開された。アンヌ・パリロー演じる少女の暗殺者が日本アニメに大きな影響を与えたものと推察される。
 『ガンスミスキャッツ』園田健一原作の初出が1991年なので、拳銃を使った美少女ガンアクションマンガの元祖と言えるかもしれない。1995年にOVAが製作されたが、不評だった。
 悪女ものガンアクションとしては、『爆裂天使』(2004年GONZO)、『ブラック・ラグーン』(2006年・2010年マッドハウス)が挙げられる。
 美少女を演出するという点においては、『ノワール』を上まわる緻密な表現と、それぞれの実銃に対応して録音した優れた音効を備え、『カードキャプターさくら』を担当した浅香守生監督の『GUNSLINGER GIRL』(2003年マッドハウス)が有る。
 他にはジオブリーダーズ(1998年)、CANAAN(2009年)が挙げられる。

3.重層な社会背景を宗教・社会体制・建築洋式と共に描く
 ノワールといえば、左派の人はフランスのルイ14世の下での信書検閲室 cabinet noir を想起するだろうし、映画ファンであれば、ギャング映画群を総称したフィルム・ノワールを連想するだろう。
 有り体に言えば、本作は『ゴルゴ13の美少女版』風であって、社会背景を丹念に描く事によって現実味を出している。また、謎めいた主人公「夕叢霧香」自身の存在を探し当てる道程そのものがストーリーの主幹となっている。
 「ノワール」ではソルダ最高評議会と原初ソルダへの原点回帰を願うアルテナ派の対立軸がある。ソルダ最高評議会は現実社会に照らし合わせれば、欧州議会を通じて行われるハプスブルク家らの貴族による寡頭政治を指しており、アルテナ派はかつて存在した民衆による清貧宗教運動であったカタリ派のような存在を象徴している。アルテナには死を司りいかなる敵をも打ち倒す「真のノワール」の称号を受け継ぐ暗殺者を育て、原初ソルダの理念や思想を取り戻す狙いがあった。一方のソルダ最高評議会は打ち続く戦乱を治め、複雑かつ巨大化した現代の政治経済体制を運営していく実務家となっていた。
 本作では建築様式に関する描写が多彩であり、歴史をなぞるかのようでもある。夕叢霧香は神奈川県の県立高校の生徒として物語が始るのだが、自宅の近くには五重塔のようなシルエットが浮かぶ。戦闘は京都風情のある竹林や、はたまた日本の高層ビル建築現場で行われる。舞台をパリに移すと、相方であるミレイユ・ブーケはパリジェンヌらしいモダンなルームデザインの部屋に住む。舞台を南米、中東、台湾、イタリアと移し、それぞれの国を醸し出す建築物がでてくる。後半では中世フランスに勃興した「ロマネスク→ゴシック」様式の発展経過を絵巻物でみるが如くロマネスク建築・ゴシック建築物が数多登場する。果てには霧香とミレイユの決闘はパルテノン神殿を思わせるドーリア式建造で闘われる。
 建築様式大辞典とも言える執念の描写はノワール1000年の歴史を演出するべく用意された背景でもあり、宗教的な装飾としても意味を持たせている。かつて暗殺集団を擁していた宗派もあり、ノワールの存在に現実味を与える役割をも担う。

4.サウンドトラック
 本作は作曲家梶浦由記の出世作でもある。戦闘シーンで使われる「salva nos」が愁眉。ラテン語の歌詞が使われている楽曲が多い。
 一部の楽曲が17世紀初頭に確立したと言われるイギリスの古楽民謡に似ている。To Drive The Cold Winter Away: Sothcott / St.george's Canzona 【寒い冬を追い払うために】ジョンスコットも参考に聞いてみると良いだろう。クールで澄み切った空間表現が特筆だ。

5.不出世の名声優「桑島法子」
 奇しくも「ノワール」の放映時間帯テレビ東京木曜25:15-25:45枠の前に放送されていた「アルジェントソーマ」(2000年)でハリエット・バーソロミュー(ハティ)とマキ・アガタの2役を夕叢霧香役の桑島法子が演じている。「アルジェントソーマ」では若々しいハティと、学者肌で落ち着いた低い声のトーンのマキを演じ分けている。霧香はノーワルとして覚醒する前と後とで、性格も声調にも差があり、実質一人で二役分演じなくてはならない。桑島法子あっての夕叢霧香だったのだとも言える。
 「ノワール」は夕叢霧香とミレイユ・ブーケ(声・三石琴乃)の愛憎劇も物語の重要な要素となっている。機動戦士ガンダムSEED(2002年)ではナタル・バジルール(桑島法子)とマリュー・ラミアス(三石琴乃)では類似した形で女同士の愛憎劇が再現されている。また、ガンダムSEEDでも、桑島法子はナタル・バジルールとフレイ・アルスターの2役を演じている。

6.まとめ
 「ノワール」に関するネットの論評を読むと押し並べて好評価である。本作は監督真下耕一・作曲家梶浦由記・脚本家月村了衛の名を知らしめた作品である。私にとってもノワールは「異様に」思い入れのある作品なのだ。原作・脚本は月村了衛。主人公らの劇的な立ち位置、思いもつかない物語展開、現実社会との擦り合わせなどの充実具合を考えると恐るべき脚本である。「少女革命ウテナ」にも脚本で参加しているゆえか、ウテナの影響も観て取れる。2010年に『機龍警察』で作家デビューしているようである。今後の活躍にも期待したい。
 推測でしかないのだが、私は本作が後に続くアニメーション作品に様々影響を及ぼしたと考えている。ノワールとはフランス語で「黒」の意味だが、アニメ「ノワール」は後に続く光芒(こうぼう)のダブルオー年代の魁けの作品であり、ジャパニメーション史に輝きを与える作品でもある。
 幸いに「ノワール」はサム・ライミ監督により、ハリウッドで実写のドラマ化が決定している。時に埋没することなく、ドラマを通じて原作である「ノワール」が、再び脚光を浴びる日が来ることを切に願う。

(参考)
サム・ライミが日本アニメの実写ドラマ化に着手!?二人の女暗殺者が主人公!
http://www.cinematoday.jp/page/N0028347
お願いミレイユそんな目で私をみないで
http://www2.famille.ne.jp/~proton/noir/noir.html
夕叢霧香twitter
http://twitter.com/#!/Kirika_Yumura
ノワールデータ図鑑
http://www5c.biglobe.ne.jp/~atnex/noir/data01.html
NOIR wiki
http://p.tl/gS8h
NOIR公式
http://www.jvcmusic.co.jp/flyingdog/tv/noir/
霧香に叫べ!
http://www.aa.alpha-net.ne.jp/shinta20/
月村了衛
http://p.tl/AWcq
posted by たかおん at 23:14| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | アニメ批評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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