2007年06月21日

カードキャプターさくらが託した夢と現実

212886485_33.jpg○「きんぎょ注意報・わぴこちゃん」からの影響
 少女マンガの始祖は戦前のSF物の影響を受けた手塚治虫の「メトロポリス」に遡り、ビジュアル面では宝塚歌劇から影響を受けた同じく手塚治虫の「リボンの騎士」だとされる。
少女マンガや少女アニメの歴史は「瞳が大きくなっていく変遷」ともいえるだろう。
私が見た中で最も大きな瞳をしていたのは、「きんぎょ注意報」(1991年佐藤順一監督)の「わぴこちゃん」だろう。わぴこは「はよ〜ん」「ばいび〜」「〜だよん」などと独特の言い回しを用いている。一方のカードキャプターさくら(以下CCさくら)の主人公「木ノ本桜」(以下さくら)は「はにゃーん」「ほえ〜」が口癖だ。「わぴこ」も「さくら」も共に大きな瞳を携えたルックスでもあり、諸所においてキャラクター設定に直接の影響を与えていると思われる。
「きんぎょ注意報」は演出面の先達として、キャラが困った時などに頭から巨大なしずくマークを出して困っている様子を表現するという手法をアニメで初めて使用した。
ちなみに、スーパーファミコン版の「きんぎょ注意報」ゲームは3人のパーティーゲームシステムで、内容はとても面白かった。

○CCさくらの初見は禁忌のアニメ扱い
 何事も人には得手不得手がある。それは性格の一端を担って人格形成にも影響を及ぼす。 私のCCさくらの初見は、「よくある少女魔法物アニメが始った」という淡白なものだった。それに、やたらにあざといと思われたキャラクター設定やコスチューム、それに熱狂的な盛り上がりを見て、逆に引いてしまった。「美少女戦士セーラームーン」も殆ど見なかった。自分で「美少女戦士!」と名乗る放漫さと、解りやすすぎる設定に感情移入するとっかかりを見いだせなかったのである。裏筋路線大好きのたかおんは佐藤順一監督の「魔法使いTai!」(1996年)、赤ずきんチャチャ(1994年)なんかを見ていた。
 私は元々「魔法使いサリー」(1966年)「魔女ッ子メグちゃん」でアニメの洗礼を受けたので、最初は魔女ッ子物や世界名作劇場などを丹念に見ていたのである。やがて、松本零二物や富野アニメに傾倒していった。今(2006年)になってまた、魔法少女物アニメに衝撃を受けたのは何か運命的なものを感じる。
 CCさくらの原作者であるCLAMPは女性3人の共同体であり、アニメ制作にも関与している。「3人寄ればもんじゅの知恵」を具現したのだろうか、服飾は恐ろしく多彩で、丁寧な演出である。そこが従来の魔法少女アニメとの完成度の差を育んだと思われる。
 ストーリーテリングも凝っている。取得していくカードにより新たな魔力を習得し、次々に押し寄せる危機を切り抜けていくというストラテジックな展開となっており、物語の連続性と緊迫感を保っている。

○視聴環境と作品世界のインパクト
 遮音を施したホームシアターを曲がりなりにも獲得できたので、最近はぼつぼつと映像作品を見ている。その過程で友人に借りた中に「CCさくら」があった。普通にテレビで見るのとは違い、ワイドダイナミックレンジ・高S/N音声で、150インチ級の大画面である。長岡先生はホームシアターを「主客転倒」と評していた。暗闇での映像・大音響は視聴者を圧倒して支配し、叩きのめすのである。
質の低い作品は大画面でみると、粗が目立ってかえって評価が低くなる。しかし、CCさくらはセルアニメ時代の最後を飾るに相応しい高い作画品質を維持し、声優陣の演技力も素晴らしいものであった。
しかし、いい年した男が夜中に大音響で
「闇の力を秘めし鍵よ。真の姿を我の前に示せ。契約のもとさくらが命じる。レリーズ!!!」
等という台詞を聴きながら悦に入っているのはキモいことこの上ない(笑)。

○丹下桜さんはなぜ休業したのか?
 CCさくらの魅力は主人公「木ノ本桜」を演じている丹下桜さんの声質と演技力に負うところが大きい。さくらはクロウカードを使う時に絶叫するが、声色が変わらない。どうやら、さくらの声は丹下桜さんの地声のようだ。台本に指定があるのか、独自の演出なのか解らないが、作中に小声で「くふッ」とか囁いたりしている。実にダイナミックレンジの大きな声優さんだ。(^^ゞ
 丹下桜さんは他にアンドロイド・アナ MAICO 2010/トラブルチョコレート(ヒナノ)等が有名だが、やはり、注目は無限のリヴァイアス(和泉こずえ)だろう。さくらはその性格ゆえに皆から愛されて成長していくが、リヴァイアスのこずえはその性格ゆえにいじめられてリンチされる。全く正反対の性格及び設定のキャラクターなのである。無限のリヴァイアスの悲劇性の演出における多く部分は丹下桜さんの演じた「こずえ」の抜きんでた存在感にあった。迫真の演技の「和泉こずえ」を演じた後、丹下桜さんは「蓬仙あおい」役の桑島法子さんにわざわざ謝ったという逸話もあるそうだ。
 そんな高い実力と魅力を兼ね備えた丹下桜さんだが、2000年3月に休業宣言をして、2000年8月公開の「劇場版カードキャプターさくら 封印されたカード」を最後に事実上の休業状態に入っている。
 休業に入った原因には諸説入り乱れている。事実確認されている情報は1999年7月に丹下桜さんは所属プロダクションの青二プロを辞めているという事だ。
 制作当時から時を経て、CCさくらを冷静な視点から観察してみて、私には放映当時にどれだけの熱狂が発生したのか伺い知れる。私が思うにCCさくらの熱狂的なブームが丹下桜さんを翻弄して疲れさせてしまったのではないかと思う。

○大東亜オタク文化共栄圏の夢
 ジャパニメーションは「杉並区−ソウル−大連」の三都市の連携で成立している。特に日本と中国は緊密な関係にある。昔のアニメ作品ではステロタイプな中国人キャラクターが出ていた。しかし、CCさくらに至ってはメインキャラクターに李小狼(リ・シャオラン)を用いている。TV版パート3は最終話に向けてさくらと小狼の恋心の交流が細やかに演出されている所も見所となっている。CLAMPは服飾だけでなく、中華文化を作中で随所に取り入れている。CCさくらの創作は香港映画をリソースとしながら、橋本政権下の時代の雰囲気を受けていたのだろう。
 CCさくらが遺したメッセージは個人に内在する「日本文化の桜」に表象される「美しき心」に幸せの源泉があるという哲学だけでなく、中華文化への理解と包容力の提示だ。世情が変ってしまった今こそ、その価値が評価されるべきだろう。


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以下は読まない方がよいですよ。
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○少女虐 待犯罪を励起した2ちゃんねるの現実
 奈良小1女児殺害事件(2004年11月の事件発生後、容疑者が特定される前に、2ちゃんねるの「CCさくら板」に立てられた虐待系のネタを扱うスレッドと事件の関連性を示唆する内容の報道が一部のニュースやスポーツ新聞で行われた。
大谷昭弘氏は「私は事件について再々、怨恨などではなく、異常な少女性 愛者による犯行ではないかと書いて、近ごろ特に目につくいわゆるフィギュアマニアや萌え族と言われる一部の人たちの嗜好に対して疑問を呈してきた」と提言した。

 私の意見は「誹謗中傷や反社会的情報を放置する2ちゃんねるが犯罪を励起した」である。インターネット上には少女虐待犯罪行為を書き連ねてある2ちゃんねるという場所が公然と展開されているのである。少女虐待は究極の反社会的行為である。2ちゃんねるは少女虐待犯罪行為の情報を複数の人間が「書き連ね」たスレッドを多くの人に閲覧させることによって、反社会的行為に対する道徳心を薄めて犯意を励起させたのではなかろうか。
 あめぞうさんは社会道徳に反する書込みは削除やIP規制して統制をとったのだが、1999年当時あめぞう掲示板のスタッフだった西村博之は「いかなる書込みも消さない掲示板」を標榜して2ちゃんねるを旗揚げした。その経緯から2ちゃんねるは反社会的な書込みも削除しない。その結果、目を覆うべき悲劇を生んだのである。私達にはこの現実と向き合う責務がある。
posted by たかおん at 22:44| 埼玉 ☁| Comment(3) | TrackBack(0) | アニメ批評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
カードキャプターさくらに関して、重要で少し悲しいお知らせです。
 さくらちゃんの誕生日にオフ会がよく開かれる滋賀県木之本町が、来年の正月に消滅するそうです。僕は行った事はないのですが、とても残念です。
あまり関係のないブログでこのような書き込みをするのは唐突ですが、取り急ぎ伝えておこうと思った次第です。
滋賀県における合併の公式サイトとおぼしきサイトがあったので、載せておきます。
http://www.pref.shiga.jp/hodo/e-shinbun/bh00/20090327-2.html
Posted by 葉桜 at 2009年05月05日 22:57
コメント頂きましてありがとうございます。
市区町村合併の余波がカードキャプターさくらにも影響を及ぼしてしまったようですね。
さくらちゃん縁(ゆかり)のイベントが無くなるのは寂しいことです。

アニメーション業界の苦境が伝えられている情勢を鑑みて、アニメの評論に力を入れようと思います。
宜しくお願い申し上げます。
Posted by たかおん at 2009年05月18日 15:12
 木之本町はゆかりの地というわけではなく、あくまでも偶然、木之本という町があったからオフ会が開かれていたのであって、市区町村合併の余波がカードキャプターさくらにも影響を及ぼした、というわけではないです。
 僕は、アニメ評論をもっとしてほしいと言うわけではないのですが、今はアニメ業界は不振なのですか。知りませんでした。
 それにしても、2ちゃんねるのさくらの書き込みはほんとにひどいですね。あれを見た時には発狂寸前になりました。小学生の兄弟がいるので、それを何かの弾みで見てしまうのではないかと思うと戦慄します。
Posted by 葉桜 at 2009年05月29日 14:19
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